仮想化と ArcGIS Enterprise
ArcGIS Enterprise を仮想化環境にデプロイする際は、最適なパフォーマンスと安定性を確保するために、リソースを効果的に予約して割り当てることが不可欠です。 ArcGIS Enterprise は一般的にリソースを大量に消費するシステムであるため、仮想化環境におけるあらゆるリソースの適切な管理が重要となります。 このトピックでは、使用する仮想化プラットフォームにかかわらず、設計段階で確認すべき主な考慮事項を幅広く紹介しています。
リソースの割り当て
仮想サーバー上の ArcGIS Enterprise におけるリソース割り当ては、パフォーマンスの最適化、拡張性の確保、安定性の維持において重要です。 ここでは、リソースを効果的に割り当てるための主な考慮事項とベスト プラクティスのいくつかを紹介します。
CPU 割り当て
- ArcGIS Enterprise コンポーネントを実行する各仮想マシン (VM) に割り当てる適切な CPU コア数を決定します。 必要なコアの数は、具体的なワークロードによって異なります。 ArcGIS Server および他の ArcGIS Enterprise コンポーネントは、複数の CPU コアを活用できます。使用パターンを分析することで、割り当てる適切なコア数の判断に役立ちます。 ライセンスによっては、特定のソフトウェア コンポーネントに割り当てできるコアの数も制限される場合があります。 詳細については、テクニカル ペーパー Licensing ArcGIS Enterprise Deployments in Virtualized and Cloud Environments をご参照ください。
- CPU 負荷を分散し、リソースの競合を回避するため、異なるコンポーネントに複数の VM を使用することを検討します (たとえば、ArcGIS Server、Portal for ArcGIS、および ArcGIS Data Store に別々の VM を使用します)。 すべての_コンポーネント_を同じコンピューターにインストールできますが、コンポーネントを分離するのがベスト プラクティスです。
- 高パフォーマンス環境の場合は、特定の VM を専用の CPU コアにピン留めするよう CPU アフィニティーを構成します。 これにより、重要なコンポーネントの一貫したパフォーマンスを保証できます。
メモリ (RAM) の割り当て
- コンポーネントの要件とワークロードに基づいて、各 VM に適切な量の RAM を割り当てます。 ArcGIS Enterprise のコンポーネントごとに、必要な RAM 容量は異なることがあります。
- RAM を過剰に割り当てると、パフォーマンスの問題が発生する可能性があります。同じホストで実行されている他の VM とリソースの競合が発生する可能性があるため、VM に必要な量よりも多くの RAM を割り当てることは避けてください。
- RAM の使用状況を監視し、必要に応じて割り当てを調整して、メモリのボトルネックを防ぎます。 オペレーティング システムのツールと ArcGIS Monitor を併用すると、メモリの使用状況や、メモリ消費の多いプログラムやワークフローを特定できます。
ストレージの割り当て
- オペレーティング システム、データベース、および頻繁にアクセスされるデータをホストするには、ソリッドステート ドライブ (SSD) などのハイパフォーマンス ストレージを使用します。 これにより、高速な入出力処理または性能が向上するため、パフォーマンスが大幅に向上します。
- オペレーティング システム、アプリケーション バイナリー、データベース、データなど、さまざまな目的に個別のストレージを割り当てます。 ストレージを分離すると、リソース管理とパフォーマンスを向上させることができます。
- シン プロビジョニングや重複排除などのストレージ仮想化技術を実装して、ストレージの使用を最適化し、コストを削減します。
- SAN や NAS ストレージ製品を作成しているストレージ プロバイダーを慎重に選定し、それらのシステムのパフォーマンス特性や制限を把握したうえで、ArcGIS コンポーネントのホストに使用します。
リソース予約
- ArcGIS Server などの重要な VM に対して、最小限のリソースを保証するためにリソース予約を使用します。 予約により、これらの VM は、同じホスト上の他の VM と競合したときでも、必要なリソースを確実に受け取ることができます。
仮想化に関する追加の推奨事項については、ArcGIS Server のドキュメントをご参照ください。
リソース プール
仮想化環境にリソース プールを作成して、類似したリソース要件を持つ VM をグループ化します。 これにより、リソースをより効率的に管理および割り当てできます。 これらのプール内では、リソースの共有、制限、および予約を割り当てできます。 リソース プールを効果的に設計するための重要な考慮事項とベスト プラクティスを、次に示します。
- VM のグループ化: 仮想化環境内にリソース プールを作成して、類似した要件を持つ VM をグループ化します。 これにより、効率的なリソースの割り当てと管理が可能になります。
- リソースの共有、制限、および予約: リソース プール内でリソースの共有、制限、および予約を割り当て、優先度の高い VM が必要なリソースを確実に受け取れるようにします。 リソースの共有は、リソースを比例的に割り当てるのに役立ち、制限はリソースの消費に上限を課し、予約は最小のリソース レベルを保証します。
- リソース プールの命名: ArcGIS Enterprise のコンポーネントまたはサービスに基づいてリソース プールに明確なラベルを付けて分類し、リソースの管理と割り当てを簡素化します。
- 高可用性リソース プール: 高可用性構成のリソース プールを設計し、重要なコンポーネントのプライマリ VM とスタンバイ VM が別々にグループ化されるようにします。 これにより、フェイルオーバー操作中のリソースの割り当てを制御できます。
- リソースの監視: リソース プールのパフォーマンスと使用率を定期的に監視して、リソースの割り当てが実際の要件と一致しているかどうかを判断します。 必要に応じて、リソースの共有と制限を調整します。
- 動的なリソース管理: ワークロードの変化に基づいて調整できる、動的に割り当てられるリソース用のリソース プールの設定を検討します。 これにより、需要の変動に対応できる弾力性のあるリソース管理が可能になります。
- リソース プールのサイズ設定: リソース プールのサイズを適切に設定して、各プールに、その中の VM の要求を満たすため十分なリソースがあることを保証します。 プール内のオーバーサブスクリプションは、リソースの競合につながる可能性があります。
CPU のアフィニティー
非アフィニティーのルールは、ArcGIS Enterprise を仮想化環境にデプロイして、システムの可用性とフォールト トレランスを強化するときに役立ちます。 これらのルールにより、特定の VM またはコンポーネントが仮想化クラスター内の別々の物理ホストに配置され、同じホストで同時に実行されるのを防ぐことができます。 これにより、ハードウェアまたはホストに障害が発生した場合のダウンタイムのリスクを最小限に抑えることができます。 非アフィニティーのルールは、コンポーネント固有の方法で、ArcGIS Enterprise システムのさまざまなコンポーネントに適用されます。
- ArcGIS サーバー: ArcGIS Server コンピューターに非アフィニティーのルールを適用して、同じサービスのプライマリ インスタンスとスタンバイ インスタンスが同じホスト上で動作しないようにできます。 これは、サービスの高可用性を構成するときは特に重要です。 たとえば、複数のインスタンスを持つジオプロセシング サービスがあるとします。 その場合、プライマリ インスタンスとスタンバイ インスタンスが異なる物理ホスト上にあることを保証して、サービスの可用性を維持できます。
- Portal for ArcGIS: 高可用性の構成に Portal for ArcGIS をデプロイするときは、非アフィニティーのルールを使用して、ポータルのプライマリ コンピューターとスタンバイ コンピューターを異なるホスト間で分離します。 これにより、ハードウェア障害やホストの保守が発生した場合でもポータルの機能を維持できます。
- ArcGIS データ ストア: 複数コンピューターの ArcGIS Data Store 構成では、非アフィニティーのルールを使用して、プライマリ コンポーネントとスタンバイ コンポーネント (プライマリとセカンダリーのリレーショナル データ ストアなど) が同じ物理サーバー上にホストされるのを防ぐことができます。 これにより、データ ストアの可用性が確保されます。
- ロード バランサー: ロード バランサーを使用して、受信トラフィックを ArcGIS Server の複数のインスタンスに分散することを検討します。 適切な構成により、トラフィックが異なるホストに分散されることが保証され、高可用性と負荷分散のレイヤーが追加できます。
- Web Adaptor: ArcGIS Enterprise のデプロイメントで Web Adaptor を使用する場合は、それぞれのホストに配置することを検討してください。 これにより、1 台のホストに障害が発生しても、ArcGIS Web Adaptor を介した Web サービスへのアクセスに影響を及ぼすことを防げます。
ストレージのパフォーマンス
ストレージのパフォーマンスは、ArcGIS Enterprise を仮想化ハードウェアにデプロイするとき、ArcGIS Enterprise のパフォーマンスと安定性を最適化するための重要な要素です。 ArcGIS Enterprise では、大規模なデータセットや複雑な空間データ処理を扱うことが多いため、最適化されたストレージ インフラストラクチャーが不可欠です。 ここでは、適切なストレージのパフォーマンスを保証するためのベスト プラクティスをいくつか紹介します。
- ハイパフォーマンス ストレージ: オペレーティング システム、データベース、および頻繁にアクセスされるデータをホストするには、ソリッド ステート ドライブ (SSD) などのハイパフォーマンス ストレージ ソリューションを使用します。 SSD によってレイテンシが低減され、データの取得が高速化されるため、I/O パフォーマンスを大幅に向上させることができます。
- ストレージの冗長性: ストレージ インフラストラクチャーに冗長性を実装して、データの可用性とフォールト トレランスを保証します。 RAID 構成を使用して、ディスク障害から保護するとともに、データの整合性を維持します。
- 専用ストレージ ネットワーク: 専用のストレージ ネットワークを使用して、ストレージ トラフィックを一般的なネットワーク トラフィックと分離することを検討します。 これにより、ネットワークの競合を減らし、ストレージのパフォーマンスを最適化できます。
- 最適化されたファイル システム: Windows ベースのシステム用の NTFS や Linux ベースのシステム用の XFS など、高い I/O パフォーマンスに最適化されたファイル システムを選択します。 GIS データに適切なブロック サイズで、ファイル システムを構成します。
- データのセグメンテーション: オペレーティング システム、アプリケーション バイナリー、データベース、GIS データなど、用途ごとにストレージを分離します。 これにより、ストレージ リソースが特定の要件を満たすよう適切に割り当てられます。
- ストレージ監視: ストレージのパフォーマンスと使用率を定期的に監視して、潜在的なボトルネックや問題を検出します。 ストレージ監視ツールを使用して、パフォーマンスの問題を事前に識別して対処します。
- データの階層化: アクセス頻度の低いデータを、低速でコスト効率の高いストレージ ソリューションに保持し、アクセス頻度の高いデータを高パフォーマンスのストレージに保持する戦略を実装します。
- バックアップと障害復旧: ストレージ インフラストラクチャーの包括的なバックアップおよび障害復旧の戦略を確立して、データ損失から保護し、ビジネスの継続性を保証します。
- ストレージの拡張: ストレージの拡張性を計画するには、データの増加に対応できるソリューションを選択します。 ストレージ アーキテクチャーが柔軟で、GIS データ量の増加に合わせて拡張できることを確認します。
仮想化された ArcGIS Enterprise 環境でのストレージ パフォーマンスに関するこれらのベスト プラクティスに従うことで、GIS ワークロードの要求に対応しながら、地理空間データ処理の効率性と信頼性を確保できます。 ストレージ構成のデータと使用パターンは時間の経過とともに変化するため、定期的な監視と調整は不可欠です。
テストとベンチマーキング
仮想化アーキテクチャーを使用して本番環境にデプロイする前に、ベンチマーク テストを行って、ArcGIS Enterprise デプロイメントの仮想リソース要件を把握します。 このデータを使用して、リソース割り当てを適切に調整します。 負荷とストレージのパフォーマンス テストを定期的に行って、ボトルネックを特定し、構成を最適化します。
詳細については、効果的なテスト戦略の設計をご参照ください。
仮想化インフラストラクチャーが組織のニーズと合致していることを保証し、セキュリティー、監視、拡張性のベスト プラクティスに従います。 セットアップを定期的にテストおよび評価して、最適なパフォーマンスと信頼性を得るために必要な調整を行います。 仮想化技術は常に進化しているため、最新の機能やベスト プラクティスを常に把握することが不可欠です。 仮想化環境におけるリソース管理のベスト プラクティスに従うことで、ArcGIS Enterprise が効率的かつ信頼性高く運用し、組織の地理空間ニーズに対応できます。 お客様に固有の要件を満たすには、リソース割り当て、高可用性、拡張性の適切なバランスを取ることが重要です。