モバイル操作およびオフライン データ管理システム (Kubernetes)
モバイル操作およびオフライン データ管理システム パターンは通常、ArcGIS Enterprise on Kubernetes ソフトウェアを使用して Kubernetes にデプロイされます。
ArcGIS Enterprise on Kubernetes は、マイクロ サービスとコンテナー化を利用してクラウド ネイティブ アーキテクチャーを提供し、組織の Kubernetes プラットフォームまたはクラウド プロバイダーの Kubernetes サービスのいずれかで動作します。 コンテナーを使って GIS プロセスをマイクロ サービスに分割し、それぞれのマイクロサービスが個別の専用機能を実行します。 各マイクロ サービスは、アプリケーションを実行するために必要なすべてのデータをパッケージ化するコンテナー内で動作します。 1 つ以上のコンテナーは、ストレージ リソース、ネットワーク ID、およびコンテナーの実行方法に関する一連のルールを含むポッドに収容されます。 Kubernetes クラスターは、ArcGIS Enterprise on Kubernetes コンテナーをオーケストレーションで管理します。
ArcGIS Enterprise on Kubernetes は、Kubernetes に投資してコンテナー化されたアプリケーションをオーケストレーションで管理する組織向けです。
関連リソース:
基本アーキテクチャー
Kubernetes にデプロイされたモバイル操作およびオフライン データ管理システムの一般的な基本アーキテクチャーを次に示します。
この図をシステムの設計としてそのまま使用しないでください。 システムの設計時には、重要な要素と設計上の選択肢を数多く検討する必要があります。 詳しくは、システム パターンの使用のトピックをご参照ください。 さらに、以下の図はシステムの基本機能のみを示しています。拡張機能を提供する際には、追加のシステム コンポーネントが必要になる場合があります。

上記の機能は、2025 年 7 月時点で利用可能な機能を反映しています。
このアーキテクチャーの主要なコンポーネントは次のとおりです。
- Kubernetes クラスターへの ArcGIS Enterprise on Kubernetes コンテナーの基本的なデプロイメント。 ここには、それぞれのシステム機能を表す 4 つのカテゴリーのポッドが含まれています。 詳細については、ArcGIS Enterprise on Kubernetes のドキュメントをご参照ください。
- 各ワーカー ノードでトラフィックを転送するには、ロード バランサーが必要です。 詳細については、ArcGIS Enterprise on Kubernetes のシステム ネットワーク要件をご参照ください。
- エンタープライズ ジオデータベースは、モバイル操作およびオフライン データ管理システムで、ユーザーが管理する (編集可能な) データを保持するためによく使用されます。 エンタープライズ ジオデータベースは、リレーショナル データベース管理システム (DBMS) に機能が追加された情報モデルです。 エンタープライズ ジオデータベースでは、高度なデータ モデルだけでなく、ロング トランザクション モデルのサポートなど、高度なデータ編集および管理機能もサポートされています。
- リレーショナル ストアを使用すると、ホスト フィーチャ レイヤーを通じて編集できる ArcGIS 管理データを保持できます。 基本デプロイメントでは、ホスト ベクター タイル レイヤーとホスト (マップ) タイル レイヤーも提供されています。 フィーチャ レイヤー、ベクター タイル レイヤー、(マップ) タイル レイヤーをダウンロードしてオフラインで使用することができます。
- オブジェクト ストアは、アップロードおよび保存されたコンテンツ、ホスト タイル レイヤー キャッシュおよびイメージ レイヤー キャッシュ、ジオプロセシングの出力を格納する ArcGIS 管理のストレージを提供します。 ArcGIS Enterprise 11.2 では、サポートされている複数のサービス プロバイダーのクラウドネイティブ ストレージを使用するように、オブジェクト ストアを構成できます。
- Esri の SaaS インフラストラクチャーである ArcGIS Online は通常、このシステムのベースマップ (衛星画像ベースマップなど)、参照データ (場所など)、その他の位置情報サービス (ジオコーディングや検索など) を提供します。 また、Esri の SaaS システムを使用する代わりに、組織が独自の位置情報サービスをホストして管理することもできます。 詳細については、位置情報サービス システム パターンをご参照ください。
- このパターンでは、よく使用されるアプリケーションがいくつかあります。 モバイルおよびデスクトップベースのネイティブ アプリケーションでは、ローカル ストレージが使用されます。このストレージは、ArcGIS がベクター タイルとマップ (画像) タイル用および SQLite データベースで保持されるモバイル ジオデータベース用に使用します。 ゲーム エンジンベースのアプリケーションでは、ベクター タイルとマップ (画像) タイル用にローカル ストレージが使用されます。 ArcGIS Web アプリケーションは、オフライン データをサポートしていません。 モバイル操作およびオフライン データ管理システムで使用されるアプリケーションの詳細をご覧ください。
このアーキテクチャーの主な連携方法は次のとおりです。
- クライアント アプリケーションは、HTTPS 経由で (通常はステートレスな REST API を介して) エンタープライズ データ サービスや位置情報サービスと通信します。 このパターンでは、特に編集のためにフィーチャ サービスを多用しますが、通常は他のいくつかのサービス タイプも使用されます。
- ArcGIS Enterprise GIS サービスは、エンタープライズ ジオデータベースをホストする DBMS (データベース管理システム) への TCP 接続を維持します。 サポートされているすべてのデータベース管理システムでは、データベース クライアントのソフトウェア/ドライバーが ArcGIS Enterprise on Kubernetes に含まれています。
- ArcGIS Online でホストおよび管理されている位置情報サービス (ベースマップなど) への参照は、通常、ArcGIS Enterprise に登録され、ArcGIS Enterprise 内で使用できるようになっています。 一部のサービスは ArcGIS Enterprise のインストール時に自動的に参照されますが、これら 2 つのシステム間でのコンテンツとサービスの追加の共有は、手動または自動で実行できます。 ArcGIS Online ユーティリティー サービスの構成と分散コラボレーションをご参照ください。
11.4 リリースより前の ArcGIS Enterprise デプロイメントでは、ArcGIS Pro ライセンスを構成および管理する場合に ArcGIS License Manager が必要になることがあります。 詳細については、ArcGIS License Manager のドキュメントをご参照ください。
ArcGIS Enterprise コンポーネント間の連携方法の詳細については、ArcGIS Enterprise on Kubernetes の製品ドキュメントをご参照ください。
機能
Kubernetes 上でのモバイル操作およびオフライン データ管理システムの機能を次に示します。 詳細については、機能の概要と、デプロイメント パターン間の機能サポートの比較をご参照ください。
モバイル操作およびオフライン データ管理システムで使用される機能のうち、通常は他のシステムによって提供される機能 (ベースマップ、ジオコーディング、位置情報サービス システムによって提供されるその他の位置情報サービスなど) は、以下に示されていません。 関連するシステム パターンの詳細をご覧ください。
基本機能
基本機能は、モバイル操作およびオフライン データ管理システムに備わっている最も一般的な機能を意味し、上記の基本アーキテクチャーによって実現されます。
拡張機能
拡張機能は通常、特定のニーズを満たすために追加されるか、業界固有のデータ モデルとソリューションをサポートするために追加され、ソフトウェア コンポーネントやアーキテクチャーに関する検討事項がさらに必要になる場合があります。
- 屋内 GIS では、フロア プラン データの作成と管理、建物内部のマッピング、フロア対応のマップとサービスの共有を実行できるように ArcGIS Enterprise が拡張されます。 ArcGIS Indoors Mobile は、iOS および Android 用のネイティブ モバイル アプリケーションであり、対象ポイントの探索、検索、保存、共有、屋内対象物に関連するインシデントの報告、ランドマークベースのルート案内の取得など、さまざまな方法で屋内マップを表示および操作できます。 ArcGIS Indoors Mobile では、屋内測位システム (IPS) が使用できるため、建物内部のリアルタイムの位置を表示して屋内空間を探索できます。 ArcGIS Indoors Mobile の詳細をご覧ください。
- 屋内測位を使用すると、建物内で自分と他人をリアルタイムで見つけることができます。 GPS と同様に、屋内測位システム (IPS) では、屋内マップ上に青い点が配置されるため、位置情報サービスを使用して、対象ポイントや目的地にナビゲートできます。 ArcGIS IPS の詳細をご覧ください。
Kubernetes を排他的なデプロイメント パターンとして使用している場合、次の機能は使用できません。 これらの拡張機能を使用できるようにするには、ArcGIS Enterprise (特に ArcGIS Server) を Windows または Linux にデプロイし、これらの ArcGIS Server サイトを、Kubernetes ベースの ArcGIS Enterprise デプロイメントで実行されている Portal for ArcGIS コンポーネントとフェデレートします。 詳細については、Windows/Linux デプロイメント パターンの機能と、サーバー サイトのフェデレーションに関するドキュメントをご参照ください。
検討事項
以下の検討事項では、ArcGIS Well-Architected Framework の柱を Kubernetes 上のモバイル操作およびオフライン データ管理システム パターンに適用します。 ここに示す情報は、すべてを網羅するものではなく、システムとデプロイメント パターンの特定の組み合わせを設計または実装する際に検討すべき主要な事項に焦点を当てています。 ArcGIS Well-Architected Framework のアーキテクチャーの柱の詳細をご参照ください。
信頼性
信頼性は、システムがビジネス、顧客、関係者が求めるサービス レベルを提供することを保証するものです。 詳細については、信頼性の柱の概要をご参照ください。
- 通常、このタイプのシステムでは、データの整合性と復元可能性が懸念事項となります。
- 高可用性を必要とする SLA は一般的です。
- アーキテクチャー プロファイルは、ポッド間でのさまざまなレベルの冗長性と相互に関係する定義済みのデプロイメント プロファイルであり、ハードウェア、冗長性、組織での用途に関する要件など、いくつかの既知の変数に柔軟性をもたらします。
- 重要なポッド間で冗長性を向上および拡張する必要がある場合は、Enhanced availability アーキテクチャー プロファイルを検討してください。
- システムレベルのバックアップと復元もサポートされています。
- データをオフラインにすると、信頼性に関連するアーキテクチャー上の重要な検討事項が発生します。 これらは主に、オフライン マップのダウンロードに使用されるアプローチ、特に事前およびオンデマンド オフライン マップ オプションに関連しています。 オンデマンド オフライン マップは、ユーザーが任意のエリアをダウンロードするようにリクエストできるという柔軟性がありますが、これは、各オフライン マップをリクエストされた時点で生成する必要があることを意味します。 これにより、オフライン マップをダウンロードできるようになるまで遅延が発生するだけでなく、特定の時間帯にサーバーに過度の負荷がかかることも考えられます。 信頼性を確保できるように設計する場合には、オフライン マップをダウンロードするためのユーザー ワークフローとアプローチを検討してください。
セキュリティー
セキュリティーは、システムおよび情報の保護を担います。 詳細については、セキュリティーの柱の概要をご参照ください。
- モバイル操作およびオフライン データには、セキュリティーに関する独自の検討事項があります。 ArcGIS セキュア モバイルの実装パターンの詳細をご覧ください。
- 認証と承認は、クラウド ソーシング スタイルの収集シナリオを除くほとんどのケースで必要です (ただし、これらは SaaS または PaaS を使用してデプロイされることが一般的です)。
- アクセス制御は、すべてのシステム層で可能であり、頻繁に実施されます。
ArcGIS Enterprise のセキュリティーのベスト プラクティスと実装ガイダンスをご参照ください。
パフォーマンスとスケーラビリティー
パフォーマンスとスケーラビリティーは、システムに対する全体的なユーザー エクスペリエンスを最適化することだけでなく、変化するワークロードの要求に合わせてシステムを拡張することも目的としています。 詳細については、パフォーマンスとスケーラビリティーの柱の概要をご参照ください。
- データをオフラインにすると、パフォーマンスに関連するアーキテクチャー上の重要な検討事項が発生します。
- オフライン マップのダウンロードに使用するアプローチを検討してください。 オンデマンド オフライン マップは、ユーザーが任意のエリアをダウンロードするようにリクエストできるという柔軟性がありますが、これは、各オフライン マップをリクエストされた時点で生成する必要があることを意味します。 これにより、オフライン マップをダウンロードできるようになるまで遅延が発生するだけでなく、特定の時間帯にサーバーに過度の負荷がかかることも考えられます。 事前オフライン マップでは、Web マップの所有者は最初に、オフライン マップとしてパッケージ化する Web マップの地理範囲を定義しておく必要があります。 事前オフライン マップは、必要になる前に生成されるため、すばやくダウンロードして使用を開始できます。 事前およびオンデマンド オフライン マップ オプションと、事前オフライン マップで更新パッケージを使用する機能の詳細をご覧ください。
- オフライン マップのサイズを縮小したり、オフライン マップの生成、ダウンロード、後からの同期に必要な時間を短縮したりするなど、オフライン マップの他の最適化方法を検討してください。
- ArcGIS Enterprise on Kubernetes のデプロイメントは、ポッド数の調整によって水平方向に、メモリーと CPU の調整によって垂直方向にスケーリングできます。 スケーリングは通常、指示的/事後対応型です。ほとんどの場合、ユーザー ベースはよく把握されており、システムに対する要求は予測可能な形で拡大します。 注目すべき例外の 1 つは、オフライン マップの事前またはオンデマンドでのダウンロードの準備に必要なシステム負荷です。 パフォーマンスとスケーラビリティーを確保できるように設計する場合には、オフライン マップをダウンロードするためのユーザー ワークフローとアプローチを検討してください。
自動化
自動化は手動によるデプロイメントと運用タスクに費やす労力を削減することを目的としており、運用効率の向上と人為的ミスによるシステム異常の減少につながります。 詳細については、自動化の柱の概要をご参照ください。
- データ管理では通常、自動化が中程度から頻繁に利用されるため、多くの場合、Python スクリプトを使用して、エンタープライズ ジオデータベース上で反復可能なタスクやレポートを実行します。 詳細については、ArcGIS API for Python をご参照ください。
- ほとんどのオフライン マップとデータの準備は通常、ArcGIS Enterprise によって自動的に処理されますが、事前オフライン マップ パッケージのスケジュール設定は、マップの所有者が構成できます。 オフライン マップの詳細をご覧ください。
- ワークフローの自動化は、共有データセットまたは関連データセットを編集および維持するために大規模な編集者グループが協力して作業する状況で、データ編集および管理システムと結合している場合に特によく使用されます。 この拡張機能の詳細については、ArcGIS Workflow Manager をご参照ください。
- システム管理の自動化は、主に Kubernetes によって処理されます。
- ArcGIS Enterprise on Kubernetes には、Helm ベースのデプロイメントと構成のサポートが含まれています。
統合
統合により、このシステムを他のシステムと接続してエンタープライズ サービスを提供し、組織の生産性を向上させます。 詳細については、統合の柱の概要をご参照ください。
- モバイル デバイス管理 (MDM)、モバイル アプリケーション管理 (MAM)、モバイル コンテンツ管理 (MCM) システムなどのエンタープライズ モバイル アプリ管理システムとの統合が一般的です。 詳細については、ArcGIS セキュア モバイルの実装パターンのテクニカル ペーパーをご参照ください。
- EAM (Enterprise Asset Management)、CRM (Customer Relationship Management)、CAMA (Computer-Assisted Mass Appraisal) システムなどの他の情報システムとの統合は一般的に行われます。
- システム間のデータ交換とアライメントは非常に一般的です。
- ArcGIS API と SDK の使用が非常に一般的です。
- サード パーティーの統合ツールとアプリケーションも利用可能です。
可観測性
可観測性はシステムの状態を可視化し、運用スタッフやその他の技術担当者がこのシステムを正常かつ安定した状態で稼働させ続けることを可能にします。 詳細については、可観測性の柱の概要をご参照ください。
- このシステム パターンを正常に運用するには、通常、データが現場でどのように使用され、誰が使用しているかを十分に理解しておくことが重要です。 これには、誰がデータをオフラインにしているか、いつオフラインにしているか、どのデータをオフラインにしているか、どのようにオフラインにしているかなどがあります。
- フィールド編集シナリオには、データ編集および管理システムと同じ可観測性に関する検討事項の多くが含まれます。
- ArcGIS Enterprise on Kubernetes は、システム ログや ArcGIS Enterprise Manager による健全性の監視など、さまざまな方法で監視できます。 このシステム パターンでは、システムの可用性、パフォーマンス、使用状況を監視することが最も重要です。 ArcGIS Enterprise ソフトウェアを監視するだけでなく、Kubernetes 環境、データベース、他のデータ ストア、コンピューティング、ネットワーク、セキュリティー、他のインフラストラクチャーなど、すべてのサポート コンポーネントとインフラストラクチャーを監視することが重要です。 システムの正常性と信頼性を監視する方法の詳細をご覧ください。
- このシステム パターンの一部の拡張機能 (ArcGIS Workflow Manager によるワークフローの管理と自動化など) には、追加の可観測性サポートがあります。 詳細については、対応する製品ドキュメントをご参照ください。
- SAML や OpenID Connect ログインを使用する場合は、構成された ID プロバイダーを通じて、ユーザー ログインとアカウントの変更をさらに監視できることがあります。 エンタープライズ モバイル アプリ管理システムと統合している場合は、モバイル デバイス、コンテンツ、およびアプリケーションをさらに監視できることもあります。
その他
Kubernetes でのモバイル操作およびオフライン データ管理システムの設計と実装に関するその他の検討事項には、次のものがあります。
- 正常に運用するには、GIS、IT、データベースの概念とテクノロジーを十分に理解する必要があります。 これには、選択した DBMS (データベース管理システム) と Kubernetes 固有の知識とスキルが含まれます。
- Kubernetes 上でのエンタープライズ ソフトウェアのデプロイおよび保守のためのリソースとスタッフを確保している組織では、ArcGIS Enterprise on Kubernetes デプロイメント オプションによって、IT の管理と保守を GIS 管理から分離することができます。
- このシステム パターンを実装する際には、データ ガバナンスと、IT ポリシーおよびロール (データ管理者やデータベース管理者など) との整合性を十分に検討する必要があります。
- 中程度から大人数の作業者、厳格な SLA、セキュリティー、その他の技術要件を必要とするシステムの場合は、エンタープライズ モバイル アプリ管理を検討する必要があります。 詳細については、ArcGIS セキュア モバイルの実装パターンのテクニカル ペーパーをご参照ください。
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