モバイル操作およびオフライン データ管理システム (SaaS)
モバイル操作およびオフライン データ管理システム パターンは、ArcGIS Online を使用した SaaS (Software as a Service) ベースのデプロイメントとして使用できます。
ArcGIS Online は、Esri が SaaS として管理および提供するクラウドベースの GIS です。 ArcGIS Online は、データ層、サービス/ロジック層、およびプレゼンテーション層にわたって機能を提供し、これらの機能が連携して完全な 1 つのシステムを形成しています。 ArcGIS Online は、世界トップ クラスのクラウド アーキテクチャー上に構築され、IT および GIS (地理情報システム) の専門家によって管理されており、信頼性の高い包括的な Web ベースの GIS 機能を備えています。
関連リソース:
基本アーキテクチャー
SaaS としてデプロイされたモバイル操作およびオフライン データ管理システムの一般的な基本アーキテクチャーを次に示します。
この図をシステムの設計としてそのまま使用しないでください。 システムの設計時には、重要な要素と設計上の選択肢を数多く検討する必要があります。 詳しくは、システム パターンの使用のトピックをご参照ください。 さらに、以下の図はシステムの基本機能のみを示しています。拡張機能を提供する際には、追加のシステム コンポーネントが必要になる場合があります。

上記の機能は、2025 年 7 月時点で利用可能な機能を反映しています。
このアーキテクチャーの主要なコンポーネントは次のとおりです。
- ArcGIS Online には、ユーザー、グループ、アイテムなどの標準的なポータル コンポーネントと、ベースマップやジオコーディング サービスなどの位置情報サービスが含まれます。 モバイル操作およびオフライン データ管理システムの機能を強化する位置情報サービスは、別の位置情報サービス システムから一部または全体が取り込まれることもあります。
- データとマップの操作のほとんどは、フィーチャ サービスとタイル サービス (ベクター タイル サービスとマップ (画像) タイル サービスを含む) を通じて実行できます。 これらのサービスでは、データをオフラインで使用することもできます。 これらのサービスの機能を強化するデータは、ArcGIS Online 内で Esri が管理するクラウドベースのストレージに格納されます。 データは、複数のソースから ArcGIS Online に公開することができます。 オフライン データの詳細をご覧ください。
- このパターンでは、よく使用されるアプリケーションがいくつかあります。 モバイルおよびデスクトップベースのネイティブ アプリケーションでは、ローカル ストレージが使用されます。このストレージは、ArcGIS がベクター タイルとマップ (画像) タイル用および SQLite データベースで保持されるモバイル ジオデータベース用に使用します。 ゲーム エンジンベースのアプリケーションでは、ベクター タイルとマップ (画像) タイル用にローカル ストレージが使用されます。 ArcGIS Web アプリケーションは、オフライン データをサポートしていません。 モバイル操作およびオフライン データ管理システムで使用されるアプリケーションの詳細をご覧ください。
このアーキテクチャーの主な連携方法は次のとおりです。
- クライアント アプリケーションは、HTTPS 経由で (通常はステートレスな REST API を介して) データ サービスや位置情報サービスと通信します。
ArcGIS Online の使用と管理の詳細については、ArcGIS Online の製品ドキュメントをご参照ください。
機能
SaaS 上でのモバイル操作およびオフライン データ管理システムの機能を次に示します。 詳細については、機能の概要と、デプロイメント パターン間の機能サポートの比較をご参照ください。
モバイル操作およびオフライン データ管理システムで使用される機能のうち、通常は他のシステムによって提供される機能 (ベースマップ、ジオコーディング、位置情報サービス システムによって提供されるその他の位置情報サービスなど) は、以下に示されていません。 関連するシステム パターンの詳細をご覧ください。
基本機能
基本機能は、モバイル操作およびオフライン データ管理システムに備わっている最も一般的な機能を意味し、上記の基本アーキテクチャーによって実現されます。
拡張機能
拡張機能は通常、特定のニーズを満たすために追加されるか、業界固有のデータ モデルとソリューションをサポートするために追加され、ソフトウェア コンポーネントやアーキテクチャーに関する検討事項がさらに必要になる場合があります。
- Premium Feature Data Store オプションを使用して、ArcGIS Online サブスクリプションのフィーチャ データ ストレージを拡張し、集中的なクエリー、編集、解析、抽出のサポートを強化します。
- データの相互運用性と変換機能では、ArcGIS Data Interoperability に備わっている視覚的なプログラミング インターフェイス (ArcGIS Online のホスト フィーチャ サービスの読み取りと書き込みを含む) を使用して、数百のシステム間やアプリ間でデータを移動させることができます。 ArcGIS Online にデータを書き込む単純なパイプラインを簡単に作成およびスケジュール設定するための代替的な手段として、Data Pipelines があります。
- ワークフローの管理と自動化では、ArcGIS Workflow Manager を使用してチーム間の作業をオーケストレーションで自動化する機能を通じて ArcGIS Online を拡張します。
- ホストされた Python ノートブックでは、ArcGIS Online を通じて SaaS として提供される ArcGIS Notebooks を使用して、Python ベースの解析、管理、および自動化を実現します。
- 屋内 GIS では、フロア プラン データの作成と管理、建物内部のマッピング、フロア対応のマップとサービスの共有を実行できるように ArcGIS Online が拡張されます。 ArcGIS Indoors Mobile は、iOS および Android 用のネイティブ モバイル アプリケーションであり、対象ポイントの探索、検索、保存、共有、屋内対象物に関連するインシデントの報告、ランドマークベースのルート案内の取得など、さまざまな方法で屋内マップを表示および操作できます。 ArcGIS Indoors Mobile では、屋内測位システム (IPS) が使用できるため、建物内部のリアルタイムの位置を表示して屋内空間を探索できます。 ArcGIS Indoors Mobile の詳細をご覧ください。
- 屋内測位を使用すると、建物内で自分と他人をリアルタイムで見つけることができます。 GPS と同様に、屋内測位システム (IPS) では、屋内マップ上に青い点が配置されるため、位置情報サービスを使用して、対象ポイントや目的地にナビゲートできます。 ArcGIS IPS の詳細をご覧ください。
- その他の業界別ソリューションでは、ArcGIS ソリューションを使用して、業界固有のアプリや ArcGIS Online の構成を迅速にデプロイできます。
検討事項
以下の検討事項では、ArcGIS Well-Architected Framework の柱を SaaS 上のモバイル操作およびオフライン データ管理システム パターンに適用します。 ここに示す情報は、すべてを網羅するものではなく、システムとデプロイメント パターンの特定の組み合わせを設計または実装する際に検討すべき主要な事項に焦点を当てています。 ArcGIS Well-Architected Framework のアーキテクチャーの柱の詳細をご参照ください。
信頼性
信頼性は、システムがビジネス、顧客、関係者が求めるサービス レベルを提供することを保証するものです。 詳細については、信頼性の柱の概要をご参照ください。
- ArcGIS Online は、複数のアベイラビリティー ゾーン、リージョン、およびサービス プロバイダーを活用して、冗長性、耐障害性、およびサービスの継続性を確保します。
- ArcGIS Online が提供する SLA (サービス レベル アグリーメント)。
- 通常、このタイプのシステムではデータの整合性と復元可能性が最優先されるため、ArcGIS Online 外部のバックアップ プロセスと手順が推奨されます。
セキュリティー
セキュリティーは、システムおよび情報の保護を担います。 詳細については、セキュリティーの柱の概要をご参照ください。
- モバイル操作およびオフライン データには、セキュリティーに関する独自の検討事項があります。 ArcGIS セキュア モバイルの実装パターンの詳細をご覧ください。
- 認証と承認は、ほとんどの場合にモバイル操作およびオフライン データ管理で必要となります。
- ユーザー アクセスとデータ コラボレーションは、ロールベースのアクセス制御と、OAuth、SAML、多要素認証などの最新の承認および認証モデルによって管理されます。
- システムは、システム スキャン、Web アプリケーション スキャン、データベース スキャンなどの脆弱性評価の対象となります。
ArcGIS Online のセキュリティーのベスト プラクティスと実装ガイダンスの詳細をご覧ください。
パフォーマンスとスケーラビリティー
パフォーマンスとスケーラビリティーは、システムに対する全体的なユーザー エクスペリエンスを最適化することだけでなく、変化するワークロードの要求に合わせてシステムを拡張することも目的としています。 詳細については、パフォーマンスとスケーラビリティーの柱の概要をご参照ください。
- データをオフラインにすると、パフォーマンスに関連するアーキテクチャー上の重要な検討事項が発生します。
- オフライン マップのダウンロードに使用するアプローチを検討してください。 オンデマンド オフライン マップは、ユーザーが任意のエリアをダウンロードするようにリクエストできるという柔軟性がありますが、これは、各オフライン マップをリクエストされた時点で生成する必要があることを意味します。 これにより、オフライン マップをダウンロードできるようになるまで遅延が発生するだけでなく、特定の時間帯にサーバーに過度の負荷がかかることも考えられます。 事前オフライン マップでは、Web マップの所有者は最初に、オフライン マップとしてパッケージ化する Web マップの地理範囲を定義しておく必要があります。 事前オフライン マップは、必要になる前に生成されるため、すばやくダウンロードして使用を開始できます。 事前およびオンデマンド オフライン マップ オプションと、事前オフライン マップで更新パッケージを使用する機能の詳細をご覧ください。
- オフライン マップのサイズを縮小したり、オフライン マップの生成、ダウンロード、後からの同期に必要な時間を短縮したりするなど、オフライン マップの他の最適化方法を検討してください。
- 拡張は ArcGIS Online によって自動的に処理されます。
- 複数のコンテンツ配信ネットワークにより、拡張性の高いマップとアプリが世界中のさまざまな場所に配信されています。
- フィーチャ データ ストレージをさらにサポート、分離、計算する場合は、ArcGIS Online Premium Feature Data Store の拡張機能をご検討ください。
- パフォーマンスとデータ レジデンシーの両方について、米国、ヨーロッパ、およびアジア太平洋地域で、地域別の地理空間データ ホスティングを利用できます。
自動化
自動化は手動によるデプロイメントと運用タスクに費やす労力を削減することを目的としており、運用効率の向上と人為的ミスによるシステム異常の減少につながります。 詳細については、自動化の柱の概要をご参照ください。
- データ管理は自動化を伴うことが多く、通常は Python を使用して ArcGIS Online で管理されているデータ ストレージ内のデータにアクセスして管理します。 これは、ArcGIS API for Python や ArcGIS Online を通じて SaaS として提供される ArcGIS Notebooks を使用して行われるのが一般的です。
- ほとんどのオフライン マップとデータの準備は通常、ArcGIS Online によって自動的に処理されますが、事前オフライン マップ パッケージのスケジュール設定は、マップの所有者が構成できます。 オフライン マップの詳細をご覧ください。
- SaaS ベースのモバイル操作およびオフライン データ管理システムでは、ワークフローの自動化は、共有データセットまたは関連データセットを編集および維持するために大規模な編集者グループが協力して作業する状況でデータ編集および管理システムと結合している場合に特によく使用されます。 この拡張機能の詳細については、ArcGIS Workflow Manager をご参照ください。
統合
統合により、このシステムを他のシステムと接続してエンタープライズ サービスを提供し、組織の生産性を向上させます。 詳細については、統合の柱の概要をご参照ください。
- モバイル デバイス管理 (MDM)、モバイル アプリケーション管理 (MAM)、モバイル コンテンツ管理 (MCM) システムなどのエンタープライズ モバイル アプリ管理システムとの統合が一般的です。 詳細については、ArcGIS セキュア モバイルの実装パターンのテクニカル ペーパーをご参照ください。
- EAM (Enterprise Asset Management)、CRM (Customer Relationship Management)、CAMA (Computer-Assisted Mass Appraisal) システムなどの他の情報システムとの統合は一般的に行われます。
- システム間のデータ交換とアライメントは非常に一般的です。
- ArcGIS API と SDK の使用が非常に一般的です。
- サード パーティーの統合ツールとアプリケーションも利用可能です。
可観測性
可観測性はシステムの状態を可視化し、運用スタッフやその他の技術担当者がこのシステムを正常かつ安定した状態で稼働させ続けることを可能にします。 詳細については、可観測性の柱の概要をご参照ください。
- このシステム パターンを正常に運用するには、通常、データが現場でどのように使用され、誰が使用しているかを十分に理解しておくことが重要です。 これには、誰がデータをオフラインにしているか、いつオフラインにしているか、どのデータをオフラインにしているか、どのようにオフラインにしているかなどがあります。
- フィールド編集シナリオには、データ編集および管理システムと同じ可観測性に関する検討事項の多くが含まれます。
- SaaS サービスとしての ArcGIS Online は、基盤となるインフラストラクチャーとソフトウェア内部の監視をサポートしていません。 ただし、システムの使用状況と正常性を監視する方法は提供されています。
- このシステム パターンの一部の拡張機能 (ArcGIS Workflow Manager によるワークフローの管理と自動化など) には、追加の可観測性サポートがあります。 詳細については、対応する製品ドキュメントをご参照ください。
- SAML や OpenID Connect ログインを使用する場合は、構成された ID プロバイダーを通じて、ユーザー ログインとアカウントの変更をさらに監視できることがあります。 エンタープライズ モバイル アプリ管理システムと統合している場合は、モバイル デバイス、コンテンツ、およびアプリケーションをさらに監視できることもあります。
その他
SaaS としてのモバイル操作およびオフライン データ管理システムの設計と実装に関するその他の検討事項には、次のものがあります。
- 運用を成功させるには、GIS と IT の概念、およびテクノロジーを十分に理解する必要があります。 また、組織は、データ アクセス、セキュリティー、管理の観点から、SaaS の意味を理解する必要があります。
- このシステム パターンを実装する際には、データ ガバナンスと、IT ポリシーおよびロール (データ管理者やコンテンツ マネージャーなど) との整合性を十分に考慮する必要があります。
- 中程度から大人数の作業者、厳格な SLA、セキュリティー、その他の技術要件を必要とするシステムの場合は、エンタープライズ モバイル アプリ管理を検討する必要があります。 詳細については、ArcGIS セキュア モバイルの実装パターンのテクニカル ペーパーをご参照ください。
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