データ編集および管理システム
データ編集および管理システムは、一般的に組織内における、信頼できる構造化データの編集および管理に使用します。 従来、このパターンは GIS の専門家とデスクトップ編集に大きく依存していましたが、最新の実装では、サービスベースのアーキテクチャーを通じて Web 編集とモバイル編集が可能になります。 サーバー ソフトウェア (特に Windows、Linux、Kubernetes) を使用してデプロイした場合、このシステム パターンは、高度なデータ モデルと、データの品質と正確性のための堅牢なノーコード/ローコードの空間ルールと属性ルールをサポートします。 ただし、このパターンでは、クラウド ソーシングなど、よりオープンで管理の少ないデータ収集シナリオもサポートされています。
データ編集および管理システム パターンは、次のようなさまざまな特性を通じて組織に価値をもたらします。
- 組織の信頼できるデータを基本的な記録システムとして管理します。
- デスクトップ、Web、およびモバイル アプリケーションを介した同時マルチユーザー編集をサポートします。
- ユーザーとコンテンツのきめ細かな管理を可能にするだけでなく、データ品質管理、編集の自動化、追跡機能など、忠実度の高いデータと IT ガバナンスを実装するために必要な機能を備えています。
ArcGIS システム パターンを初めて使用する場合は、まずイントロダクションを確認してください。
ユーザー ペルソナとワークフロー
データ編集および管理システムを最もよく操作するユーザー ペルソナと、このシステムを使用して通常実行するワークフローとタスクの種類を次に示します。
- 編集者。 編集者は、データに対して編集操作を実行し、1 つのレコードの属性とジオメトリーを編集するか、属性を一括で編集することもできます。 編集者には専門知識やテクノロジーに対する全体的な理解に幅があり、オフィスや現場で編集を行うこともあります。
- データ所有者。 データ所有者は、編集されるデータセットに対して責任を負います。 データ所有者は通常、データ モデリング、品質管理、ガバナンスなど、データ管理の設計面と監視面に関与します。
- データ管理者。 データ管理者は通常、データの日々の管理を担当します。 一般的なワークフローと活動には、データの読み込み/インポート、データ編集の確認と検証、データ編集の監査、編集ワークフローの構造化と管理などがあります。
- GIS 専門家。 GIS 専門家は、編集者やデータ管理者の役割を果たすこともありますが、より高度な空間データ設計や管理サポートが必要な場合にデータ編集および管理システムを操作することもあります。
アプリケーション
ArcGIS には多くのアプリケーションとエクスペリエンスが用意されていますが、通常は 1 つのサブセットだけがデータ編集および管理システムの一部として使用されます。 上記のペルソナが、データを編集および管理するために最もよく使用するアプリケーションを次に示します。
- ArcGIS Pro は、GIS 専門家が編集などのさまざまなユースケースで使用するデスクトップ アプリケーションです。 ArcGIS Pro は、非常に柔軟で豊富な機能を使用して編集でき、通常は GIS 専門家やその他の役割を持つ専門家が使用します。 また、これらのペルソナがデータ管理の目的でよく使用します。
- ArcGIS Experience Builder は、Web アプリケーションの作成に使用される構成可能なコード不要のアプリケーション ビルダーです。 データ編集および管理システムでは、ArcGIS Experience Builder を使用して、専用の表示および編集 Web アプリケーションを作成するのが一般的です。
- ArcGIS Field Maps は、Android、iOS、watchOS、および Windows デバイスで利用できるオールインワンのモバイル アプリケーションです。 データ編集および管理システムでは、ArcGIS Field Maps を使用してマップ中心のデータを収集するのが一般的です。こうしたデータ収集は、通常現場で実施され、ネットワーク接続がある場合とない場合があります。 オフライン (非接続) のデータ収集については、下記の検討事項をご参照ください。
- ArcGIS Survey123 は、Web デバイスおよびモバイル デバイス向けのフォーム中心のデータ収集ソリューションです。 データ編集および管理システムでは、ArcGIS Survey123 はフォーム中心のデータ収集によく使用されます。 ArcGIS Survey123 と ArcGIS Field Maps はどちらも、データ収集用のスマート フォームを提供していることに注意してください。詳細については、フォーム アプリの比較をご参照ください。
- ArcGIS Web Editor は、GIS ユーザと非 GIS ユーザーのデータ管理ワークフローを効率化する Web ベースのデータ編集アプリケーションです。
- ポータル Web サイトは、ArcGIS システムへの一般的な Web インターフェイスであり、閲覧者、編集者、作成者、専門家、管理者のさまざまなユース ケースをサポートしています。 データ編集および管理システムでは、ポータル Web サイトは通常、検出ポータルおよびコラボレーション ポータルとして機能するだけでなく、一部のユーザー向けの表示および編集機能としての役割も果たします。 また、データ所有者と管理者がデータ管理の目的でよく使用します。
- マッピング API と SDK で構築されたカスタム アプリケーション。
データ編集および管理システムでの視覚化またはレポート作成に、他のアプリケーションが使用されることもあります。 そのようなアプリケーションの 1 つが ArcGIS Dashboards です。これは、1 画面の直感的で対話型のデータ視覚化を使用して情報を一目で確認できるように設計された Web アプリケーションです。 データ編集および管理システムでは、ダッシュボードは通常、KPI (主要業績評価指標) やその他の指標を関係者に提示するために作成されます。
ArcGIS が提供するすべてのアプリケーションの詳細については、ArcGIS の概要のアプリケーション アーキテクチャーをご参照ください。
機能
データ編集および管理システムに備わっている主な機能を以下で紹介します。これらの機能には、一般的な機能と、業界固有の機能およびソリューションの両方があります。 データ編集および管理ワークフローで使用される機能のうち、通常は他のシステムによって提供される機能 (ベースマップ、ジオコーディング、位置情報サービス システムによって提供されるその他の位置情報サービスなど) は、以下に示されていません。 関連するシステム パターンの詳細をご覧ください。
次に示されたすべての機能をすべてのデプロイメント パターンで使用できるわけではありません。 これらの機能がさまざまなデプロイメント コンテキストでどのように適用されるか (または適用されないか) の詳細については、デプロイメント パターンの選択とデプロイメント パターンに関するページをご参照ください。
一般的な機能
- マッピングと視覚化を使用すると、ユーザーは 2D マップと 3D シーンを作成したり操作したりできます。 これには、データ主導の視覚化、3D 視覚化、ベースマップのスタイル設定があります。 マップと視覚化の詳細をご覧ください。
- データ編集では、ジオメトリーや属性などのリレーショナル データをサービスベースで編集できます。 この機能は、フォームやマップを使用した単純なデータ収集ワークフローもサポートしています。
- データのインポートとエクスポートでは、データを一括でインポートまたはエクスポートできます。 また、データのインポートに使用できるデータ パイプラインは、一部のデプロイメント パターン用のオプションです。
- データの相互運用性と変換では、ArcGIS Data Interoperability に備わっている視覚的な設計およびプログラミング インターフェイスを使用して、数百のシステム間とアプリ間でデータを移動させることができます。 また、データ パイプラインは、一部のデプロイメント パターン用のオプションです。
- 編集の追跡と監査では、編集情報の記録を使用して、データの挿入または更新に関する情報を自動的に記録します。
- ショート トランザクション管理では、データベース トランザクション モデルを活用して、データの複数のバージョンを管理せずに、原子性、一貫性、分離性、永続性 (ACID) トランザクションを実行できます。 詳細については、バージョン非対応のデータ管理をご参照ください。
- ロング トランザクション管理では、データベースの複数の状態 (バージョン) を同時に存在させることで、データベース トランザクション モデルを拡張します。 この機能は、競合の検出とリコンサイルもサポートしています。 詳細については、バージョン対応のデータ管理をご参照ください。
- 空間ルールと属性ルールでは、属性ルールを使用して、編集の操作性を強化し、地理空間データの整合性を向上させます。
- データ配布とレプリケーションでは、管理者ユーザーは、レプリケーションとその他のメカニズムを使用してデータを配布できます。
- データのアーカイブと履歴では、アーカイブを使用して、データの変更をキャプチャーして管理し、経時的に解析することができます。
- 高度なデータ検証では、ArcGIS Data Reviewer を使用して、データ品質管理ワークフローを簡素化、改善、自動化します。
- ワークフローの管理と自動化では、ArcGIS Workflow Manager を使用して、チーム全体の作業を調整および自動化します。
- ホストされた Python ノートブックでは、システムでホストおよび提供されている ArcGIS Notebooks を使用して、Python ベースの解析、管理、自動化を組み込みます。
業界固有の機能とソリューション
- ユーティリティー ネットワークでは、ArcGIS Utility Network を使用して、ユーティリティー業界の複雑なネットワークの管理をサポートします。
- パーセル管理では、ArcGIS Parcel Fabric を使用して、階層とサブサーフェスの情報、所有権レコード、農業と天然資源の権利など、3D と 4D のパーセル データを管理できます。
- 一般道路と高速道路では、ArcGIS Roads and Highways を使用して、計測ベースの位置と関連データの編集および管理ワークフローを運輸業界に提供します。
- パイプライン参照では、ArcGIS Pipeline Referencing を使用して、計測ベースの位置と関連するデータの編集および管理ワークフローをパイプライン業界に提供します。
- 防衛マッピングでは、ArcGIS Defense Mapping を使用して、防衛マッピング機関や請負業者向けの地理情報の作成を効率化します。 ArcGIS Defense Mapping は、データの収集と帰属、データ管理、データ検証、標準化された防衛データとカートグラフィック製品の作成のためのツールなど、標準化、再現性、構成を通じて、制作プロセスを最初から最後まで自動化します。
- プロダクション マッピングでは、ArcGIS Production Mapping を使用してデータとマップの制作を最適化します。 ArcGIS Production Mapping は、各国の民間マッピング機関および信頼できるコンテンツ制作者向けの、仕様主導型の地形図マッピング ソフトウェアです。 このエクステンションは、標準化、再現性、および構成を通じて、制作プロセスを最初から最後まで自動化するための専用ツールを提供します。 プロダクション マッピングは、画像データ管理だけでなく、セルフサービス マッピングやエンタープライズ アプリケーションによるマップ作成と使用を含む多岐にわたる機能を提供します。 データ編集および管理システムによって提供されるこの機能のサブセットには、データの作成、検証、および管理が含まれます。
- 屋内 GIS では、ArcGIS Indoors を使用して、ソース CAD、BIM、リアリティー キャプチャー データを組み合わせて 1 つの地理空間記録システムを作成します。 ArcGIS Indoors を使用すると、組織は屋内 GIS を構築し、屋内マッピング、ウェイファインディング、空間管理ソフトウェアの機能をすべてのユーザーに提供することができます。
- その他の業界ソリューションでは、ArcGIS Solutions を使用して、業界固有の構成を迅速にデプロイできます。
アーキテクチャーに関する検討事項
データ編集および管理システムは、ArcGIS を使用して構築されます。 このセクションでは、データ編集および管理システムが ArcGIS アーキテクチャーの特定の側面とどのように連携し、どのように焦点を当てるかを詳しく説明します。
アーキテクチャーに関する詳細な検討事項については、デプロイメント パターンの選択をご参照ください。
データ (永続性)

データ編集および管理システムは、主にリレーショナル データベースに格納されたリレーショナル空間データを処理します。 このシステムでは、多くの状況においてエンタープライズ ジオデータベースによって提供される高度な空間オブジェクト、ルール、およびリレーションシップを使用できますが、これらの機能がすべてのデプロイメント パターンでサポートされているわけではありません。 業界データ モデルもよく使用されますが、より高度な業界固有の機能とワークフローをサポートするには、サービスとアプリケーションをさらに追加する必要があります。 詳細については、業界固有の機能とソリューションをご参照ください。
サービス (ロジック)

サービス層またはロジック層では、編集、表示、レポート、およびデータ管理ワークフローでデータ サービスと視覚化サービスが多用されます。 空間解析サービスと画像解析サービスは、データの編集および管理ワークフローを補完するために使用できます。 ビッグ データ、リアルタイム、AI、ディープ ラーニング、その他の解析サービスは、データの編集および管理のワークフローをサポートしたり、データベースにインポートされるデータ更新を生成したりする目的で使用される場合があります。 ただし、解析の多用は通常、より解析に重点を置いた他のシステム パターンでサポートされています。
ポータル サービスはすべて、通常の編集、表示、レポート、およびデータ管理ワークフローの一部として使用されます。 これは特にユーザー アクセスと管理に当てはまり、ユーザー ID が確立され、データ アクセス制御とユーザー権限の両方が一元管理され、システム全体に適用されるようになります。 また、コンテンツの検出、共有、コラボレーションは、共有された編集ワークフローや関連する編集ワークフローで共同作業している編集者のチームを支援する目的によく使用されます。 コンテンツの作成、カタログ化、管理も実行されますが、ほとんどのエンド ユーザーは編集に重点を置いたワークフローの一部として特定のコンテンツとデータセットを直接操作しているため、主に内部で実行されます。
ArcGIS REST API は、アプリケーション アクセスのためのシステムへの主要なエンドポイントとして使用されますが、一部のアプリケーションでは、他のサービスベースの API が使用されることもあります。 一部の特定のデータ管理および管理ワークフローでは、デスクトップ アプリケーションを使用してデータ層に直接アクセスすることがありますが、最新のデータ編集および管理システムでは、このような状況はあまり一般的ではありません。
データベースへの接続について
ほとんどのシナリオにおいて、クライアントとデータベースのネットワーク ロケーションが大きく異なる場合、ArcGIS Server または ArcGIS Pro をデータベース ストレージに接続 (クエリー レイヤーまたはエンタープライズ ジオデータベース接続) して使用しないでください。 具体例として、オンプレミス ネットワーク上の ArcGIS Pro または ArcGIS Server を使用して、クラウド プロバイダーがホストするデータベースに接続することは推奨されません (同じ構成で逆向きの場合も同様)。パフォーマンスに重大な問題が生じる可能性があります。 詳細については、クラウド データベースに関する ArcGIS Enterprise のドキュメントをご参照ください。
アプリケーション (プレゼンテーション層)

アプリケーション層またはプレゼンテーション層には、ユーザーによる編集、表示、レポート、およびデータ管理のためのアプリケーションが含まれます。 これには、デスクトップ、Web、およびモバイル アプリケーションが含まれ、すぐに使用できる (構成可能な) アプリケーションだけでなく ArcGIS Maps SDK を使用して構築された専用のカスタム アプリケーションもあります。 没入型エクスペリエンスは、データ編集および管理システムではあまり使用されません。
詳細については、上記のアプリケーションのセクションをご参照ください。
サポート
データ編集および管理システムは、組織の信頼できる空間データの記録システムとしてよく使用されます。 これには、データの編集、保守、管理のためのビジネス クリティカルなワークフローやミッション クリティカルなワークフローが含まれる場合があるため、信頼性、セキュリティー、可観測性、パフォーマンス、スケーラビリティーなどの面で厳格な非機能要件とサポートの手法が必要になります。 また、強力なガバナンスの実践と基準は、システムがビジネスのニーズに応じて成長、拡張、進化すると同時に、非機能的な IT 要件に準拠するのにも役立ちます。
自動化は、データ編集および管理システムで非常に一般的です。 バッチ処理とレポート作成のワークフローは、通常、ヘッドレスの自動操作として実行され、多くの場合は営業時間外にシステムに対して実行されます。
通常、このシステムで管理されている空間データは、密結合されているか、別の情報システムで管理されているデータに関連付けられています。 たとえば、組織の資産の場所をデータ編集および管理システムで管理し、資産の帰属やその他の特性を EAM (エンタープライズ資産管理) システムで管理できます。 システム統合の詳細については、ArcGIS Well-Architected Framework の統合の柱をご参照ください。
一般的なサポートとアーキテクチャーに関する検討事項については、アーキテクチャーの実践および ArcGIS Well-Architected Framework のアーキテクチャーの柱をご参照ください。
関連するシステム パターン
データ編集および管理システムは、他の ArcGIS システム パターンと統合または組み合わせることができます。 一般的な例を次にいくつか挙げます。
システム パターンを統合または構成する方法の詳細については、システム パターンの使用をご参照ください
例
このシステム パターンにおける業界固有のシステムとして、次のような例があります。
- 公益事業。 データ編集および管理システム パターンは、すべての種類の公共事業 (電気、ガス、水道) の基盤です。 公益事業は、データ編集および管理システム パターンを使用して、資産管理システムと運用管理システムを実装しています。 また、このシステム パターンは、モバイル操作およびオフラインデータ管理、セルフサービス マッピングなど、他のシステム パターンと組み合わせて使用されます。 Liberty Utilities では、ArcGIS Utility Network データ モデルを使用して、北米と南米のさまざまな公共事業をサポートしています。 モーリシャス中央水道局では、データ編集および管理システム パターンを使用して、従来の紙ベースのシステムによって引き起こされていた問題に対処しました。 配管ネットワークや配水付属品など、水資産の位置の正確なマップを作成することができました。
- 地方自治体。 地方自治体では、データ編集および管理システム パターンを使用して、パーセル管理システムと道路ネットワーク情報管理システムを実装しています。 多くの場合、他のシステム パターンは、データ編集および管理システム パターンによって稼働しています。 たとえば、Logan County Assessor’s Office では、ArcGIS Parcel Fabric を使用して正確なパーセル情報を維持しています。 Assessor’s Office では、パーセル情報を使用して、ArcGIS ソリューションの別のシステム パターン (エンタープライズ アプリケーションのホスティングと管理) である Equitable Property Value ソリューションをサポートします。 Equitable Property Value ソリューションは、現在および過去の評価額など、パーセルの情報の公共的な透明性を高め、Assessor’s Office が市民からの要求に応える業務コストを削減します。
- 交通。 データ編集および管理システム パターンは、道路ネットワーク情報管理システムや航空および空港管理システムに加え、海事および港湾管理システムを実装するために使用されます。 このシステム パターンをよく使う業界として、州の交通機関があります。 たとえば、ネバダ州運輸局とコロラド州運輸局はどちらも、このシステム パターンを使用して、それぞれの公道用地情報を編集および管理しています。
- 業界横断。 屋内マッピングとスペース管理は、データ編集および管理システム パターンの業界横断的な例です。 オフィスや施設を持つ組織は、ArcGIS Indoors を使用して屋内データを編集および管理できます。 屋内データを使用して、ArcGIS Indoors Space Planner アプリケーションなどの他のアプリケーションを使用して屋内空間を計画および管理できます。 キング郡の ArcGIS Indoors の導入事例を詳述した StoryMap アプリケーションの例をご参照ください。